パラレル通信

composer/Gaspar Knowsの中のひとり/神楽音楽研究中。 平日は某ゲーム会社にいます 連絡→outtakesrecords@gmail.com

神楽音楽研究レポート①(2020/2/1_埼玉県玉敷神社)

f:id:thebachs:20201211073932j:plain

今年から、かねてより興味を持っていた神楽音楽について研究をはじめました。

 

神楽音楽の由来、歴史、地域との関わり方などの民俗学的な話は先行する優秀な研究者の方々がいらっしゃるためここで私から言及することはしません。(興味のある方は地元の図書館で探してみてください。面白い本がたくさんあります。)

 

この研究レポートで私が調べていきたい事柄は以下の通りです。  

 

①神楽音楽を現代の音楽理論として参照した時、どのように捉えること/回収することができるのか

②日本各所に根付く伝統音楽の構造を使って現代にも通用する音楽を作ることができないか模索するということ。

 

かつて、アメリカで起こった民族的な音楽と西洋音楽の融合や、現在あらゆる場所で発生している国を超えた音楽的要素の混ざり合い。そういった音楽の闇鍋の中に日本の神楽音楽を混ぜ込んでみたい。さらにいうと、混ぜ込んでしまえば面白いものができるかもしれない。そういった可能性を感じたことがこの研究の始まりです。(具体的には三上敏視さんが書かれた新・神楽と出会う本を読み、大変感銘を受けたことがあります)

 

また、この研究では神楽のリズムに絞って分析を行い、音階/祝詞といったウワモノは対象外としたいと思います。これは自分がリズム好きであることも関係していますが、神楽音楽のリズムの上に現代楽理のウワモノを載せるとものズゴイものができるのではないかという野生的直感からそう決めました。

 

今回は第一回目の報告として2020/2/1に玉敷神社で奉納された神楽音楽について報告します。前述の通り、神楽のリズムにのみ着目するため取り上げる音楽は全てKAGURA1、2といった番号で示しますが、実際には各演目にきちんとした名前があり舞踊にもそれぞれ意味があります。(玉敷神社では奉納前にわかりやすく説明していただきました)こちらも興味がある方は前述の三上敏視さんの本を参照ください。

 

報告1 玉敷神社 KAGURA1

 

soundcloud.com

 

玉敷神社の神楽では演奏者は三人でした。太鼓が二人、横笛が一人。さらに舞踏する人が降る鈴で楽器は計4つとなります。

 

前半は静かなリズムで始まります。(実際にこの静かな部分は10分ほどありましたが音源では編集しています)この部分では4/4拍子のように聞こえますがループする最後の小節にブレイク(休符)が入ります。これによって、聴衆者はどの部分でリズムがループしているのかわかりづらい構造となっています。(カオス状態)

 

ここから演舞を行う踊り子が神座に登場するとリズムが変わり、一気にダンスミュージックのようなシンコペーションとなります。リズム的には太鼓によってセカンドラインのスネアに近いダン、ン、ダン、ダンダンというリズムが刻まれ、そこに4ビートの鈴が乗ることでまさにノリの良い音楽となります。太鼓をスネア、鈴をハイハットと見立てればそのままアメリカの音楽にもつながるリズムと言えるのではないでしょうか。(神楽はセカンドラインが生まれるずっと前からあるものと思われ、こういった場所、歴史、地域の違いの中で同じようなリズムが生まれていることにとても魅力や可能性を感じます。)

 

また、曲の途中に太鼓の連打とブレイクが入り(ここだけ3/4拍子+短い休符)、曲に勢いを与えています。このように静かなカオスから始まり、セカンドラインのようなノリやすいコスモス的リズムに移行し、要所でまたカオス的なリズムを出すという演出がなされています。なんとなく日本の伝統音楽は一定のリズムを刻むだけの眠たい音楽に思われがちですが、こうして細かくみていくととても演出的に構成されているのがわかります。

報告2 玉敷神社 KAGURA2

soundcloud.com

 

これはすごいリズムです。初めて聞いた時には驚きました。音だけでは伝わりにくいのですが、1小節の最後にほんのすこしだけ休符が入ります。(実際に目で見てわかったのですが太鼓奏者の方の手がそこだけ一瞬止まっていました)この休符によって、4/4のリズムでノッて聞いていると最後の部分でガクッとリズムが脱臼するような感覚になります。(細野晴臣さんが泰安洋行で行なった1拍子のリズムに近いと個人的には思いますが)このガクッとなる感じはすこし前に流行ったいわゆるJ Dilla的なズレたビートにも通ずる人間の脳みその中の一定のリズムと演奏される鈍った(脱臼した)リズムの間で生じるグルーブに近いものと思います。(このリズム、サンプリングしてBPMあげればHipHopのトラックになるのでは...)

 

音だけ聞くと単純に演奏者が下手なように聞こえますが、実際にある部分でだけ手を休めているわけで狙ってこのリズムを出しているものと思われます。(神楽音楽は基本的に楽譜はないようなので、こういったリズムは遠い昔、それこそJ Dilla細野晴臣の遥か前にすでにあって、それが口述伝承で伝わってきたのでしょう。面白い!!)

 

報告3 玉敷神社 KAGURA3

soundcloud.com

 

このリズムは4小節で1ループとなるため割と普通のように聞こえますが、小節の結句点(現代風に言えばバスドラムの位置。表拍)が1小節の中に3つ(奇数)あります。現代の音楽で言えば1小節に結句点は2つが基本ですので一聴してループ箇所がわからないようなリズムになっています。(拍で言えば3+2+3といった感じでしょうか)

 

こういった結句点のずらしは現代のポップ・ミュージックにも見られますが、その場合どちらかというと小節が奇数になることが多いように思います。(以下参照)

 

A Tribe Called Quest-Electric Relaxation

 

www.youtube.com

 

 

 

しかし、この神楽では小節はあくまで偶数のままでそれを3つに割っているのです。この割り方を現代の音楽のどこかに使えないものか。。考えてしまいます。

 

今回の報告は以上です。

密かな目標として、今年の終わり頃には東京のどこかのライブハウスを神座と見立て神楽のリズムを土台に現代的なウワモノを乗せたダンスミュージックを奏でるライブを行いたいと思っています。(メンバー募集中!!)

以上