パラレル通信

composer/Gaspar Knowsの中のひとり/神楽音楽研究中。 平日は某ゲーム会社にいます 連絡→outtakesrecords@gmail.com

荒川キャッチボール奇譚

土曜日、荒川でキャッチボールをしていた。

荒川の野球グラウンドは川とグラウンドの狭間に結構幅のある草むらが生い茂っていて

人間が直接、川にアクセスするのは難しい。

 

草むらの中からは時々、音が聞こえる。

 

今週も草むらの前にある仕切り用ロープの脇に自転車を止めるとざわざわという音がした。

それは草むら全体が唸っているような、声のような響きで一瞬思考が停止する。

何かが潜んでいるというより草むら全体が一つの生き物のようだった。

 

キャッチボール相手の友達もその声を聞いていて目があって

「なにかいるよね?」と確かめ合う。

 

そのまま草むらを見つめていると、ざわざわはゆっくりと遠ざかっていって音がしなくなる。

「虫かな」ととりあえずは納得してキャッチボールを始めた。

 

荒川グラウンドの立地を少し説明すると、

川から順に、

川→草むら→草むらを仕切るロープ→グラウンド(土)→芝生→サイクリングロード→土手

という形になっていて自分たちは芝生の特にグラウンドの端で有刺鉄線に近くなっている場所でキャッチボールする。

だから球がそれるとロープを超えてボールが草むらのなかに入ってしまう。

 

今年から始めたキャッチボールなので球はそれるし、取り逃がす。

だからその日も草むらにボールが何度か入りそうになった。

 

僕がボールを取りに草むらに近づくとざわざわが聞こえる。

僕が遠ざかるとざわざわも静まるということを繰り返す。

 

30分ほどキャッチボールをしたあとの休憩中に

草むらに潜むものについて友達と話す。

 

「先々週キャッチボールした時、川ガニの抜け殻があったよね」

と言われ、確かに鳥に食べられたようなカニの抜け殻が芝生に落ちていたことを思い出す。

 

なるほど、と思って視線を低くして草むらを見つめる。

じっとしているとゆっくりと何かが動いているのが見えた。

横歩きの生き物が川へ逃げていく。やはり川ガニのようだが草むらが茂っていて完全に姿を見ることはできない。

 

顔を上げると散歩に来ていた犬が草むらに向かって吠えている。

野良猫が草むらに消えていくのも見えた。

 

耳を澄ましてみるとセイタカアワダチソウが揺れる音に混じって

やはりざわざわが聞こえる。

よく聞くとコツコツという音も混じっているようだ。

 

姿が見えないというのはこんなに怖いものかと感じた。

 

何かがいる気配と、猫、犬、人間といった動物がそれぞれの環世界でそれを感じ取っている様もなんだか不気味だ。

 

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「ボールを取りにこの中に入ったらカニだらけになりそうだ」とおどけてはいたが

内心は怖いのでボールは力を抜いてコントロール良くキャッチボールを続けた。

 

時間がお昼近くになると音もしなくなり、

自分たちも昼飯のためにそれぞれの家へ帰った。

 

この川でキャッチボールを始めて半年くらいになるが

季節が変わるごとにいろいろなものが現れるので怖いが面白い。

 

次は何が潜むのか。