パラレル通信

composer/Gaspar Knowsの中のひとり/神楽音楽研究中。 平日は某ゲーム会社にいます 連絡→outtakesrecords@gmail.com

楽園のかけら

2022年になってから読書の量を減らそうと決めた。

ここ数年は週に3冊ほどのペースで本を読んでいたが(ビブリオマニアの人からしたら全然少ないのだろうが)そのせいか、自分の中で言葉に縛られるように感じる瞬間が何度かあった。

 

年明けに細野晴臣中沢新一の観光を読み直したり、チェーンソーマンを読んでいて五十嵐大介漫画からの引用が多くて魔女を読み直したりしていたら、同じようなことが書かれていた。

 

言葉と経験の量はつりあっていないとバランスがとれない

 

自分の中に内在する言葉たちは感覚としては理解しているが

今はそれを実世界で試せていないのではないかと思う。

去年はGWから隔週で荒川でキャッチボールをする習慣ができたり、夏頃からスタジオに入って演奏することを再開したりして

少しずつではあるが活動(経験)することも増えてきたが

やはりインプット過剰だ。

 

だれかの言葉や考えを理解し、その仕組みをわかっている(つもりになっている)だけではなく

それを自分の言葉や考えとして捉える経験が必要だと強く思う。

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"五十嵐大介-魔女"から引用

 

数年前から東京の23区に住み難さを感じて引越し先を探し続けている。

場所としては三鷹が良いとずっと思っているが通勤のことを考えると少し躊躇する(とはいえ今の仕事はテレワークがずっと続くらしいが)

 

今の街も(浅草寺スカイツリーの間)暮らしやすいし、住んでいる部屋も新築で立地も良い。

ただやはり自分は自然の隣で暮らしたいと思う人間のようで、そういう意味では埋立地である今の街に自然の美しさはあまり感じられなかった。

 

それでも近所の親水公園も年々、土の匂いが濃くなったり、ビオトープがいい感じに美しくなってきてもいる。散歩の圏内にすごく良い本屋もできていよいよ引っ越す理由がなくなってきた感じだ。

 

その本屋でジョナス・メカスの批評本を買った。(結局本ばかり読んでいるが、、)

 

メカスがヘンリーソローに陶酔していたと知ってすごく共感した(ウォールデンを見た時点で気づくべきだとは思ったが)

 

映画ウォールデンで撮られているNYの街はとても自然豊かで美しいように見える。

しかし、実際の街はもっと汚れていて、自然は少ないのだろう。

メカスはそういった街に暮らすしかなかった。戦争で故郷を追われたのだから。

 

映画ではそのNYのなかでもフラクタル的に、小さな自然をまるで楽園のかけらを集めるようにスナップショットしてゆく。そしてそれらを編集しつなぎ合わせることで一つのイメージが立ち上がってくる。

 

それはメカスの故郷リトアニアの自然であり、自分が過ごした富山の川や田んぼやその向こうに聞こえる鉄道の音につながっているように思える。


ルーリードは

" Fly me to the moon.. fly me to a star

But there are no stars in the New York sky

They're all on the ground.. "と言った。


都市の光は地下道を巡っていたるところに潜んでいるのだろう。

 

 

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ウォールデンから引用

 

ウォールデンのリール1の途中で引用される聖書。

 

流されることなく、孤独のまま、苦悩することでしか自分の楽園は維持できない。

諦めて流されてしまえばその楽園のかけらたちは自分をその向こうにある楽園に誘ってはくれない。

 

自分が散歩をする理由は、思考するためでも、健康のためでも、気分転換のためでもなく、

街の中から楽園のかけらを見つけてあの、はるか昔に知っていた自分だけの感覚にいたるためだと気づいた。

頭では理解してたが実感として気づくことができた。

 

年末に富山に帰った時に確認できた私の今だ失われざる楽園。

あの場所は自分の秘密の場所であり、佐野美津男が魔法使いの伝記で書いた鉄棒の下にある聖域のことだ。

 

街に潜む川、その音と反響する遠い車の音。揺れる防風林を抜けて小さな川を渡る。

誰もいない高架下のトンネルとその向こうの土手の道。トンネルの内と外の音の違い。この世で自分しか知らない場所。

音のない街。それらを東京でも発見できるような気が今はしている。

 

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"佐野美津男-魔法使いの伝記" からの引用。名著です。