パラレル通信

composer/Gaspar Knowsの中のひとり/神楽音楽研究中。 平日は某ゲーム会社にいます 連絡→outtakesrecords@gmail.com

神楽研究レポート3(2020/11/1千葉県玉前神社)

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例のアレの影響でフィールドワークが滞っていました。久しぶりの神楽研究レポートです。

今回は千葉県上総一ノ宮にある玉前神社の神楽を見学させていただきました。自分の現住所が浅草近辺で錦糸町駅まで徒歩圏内なので上総一ノ宮は総武快速線の終点として名前を知っている、房総半島に旅するときの乗換駅くらいのイメージしかなく実際に降りたのは今回が初めてでした。

 

降りてわかったのがどうやらオリンピックのサーフィン競技の会場に選ばれているらしく駅から東口(海側)は綺麗に整えられている印象、反対に西口は山に続く街でサーフィンムードはあまりなく房総半島の街特有のギリギリ感があってとても来るものがありました。(つげ義春好きにはたまらないあの感じ、ねじ式の元ネタも外房線太海駅だし、漫画家をやめて養老渓谷に若隠居しようとした話は人ごととは思えない...)

 

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ちょっと脱線して、、

 

どこかで聞いた話ですが、昔から東京の東側に住む人と西側に住む人では夏の海水浴の場所が違うという話があって、西側に住む人は新宿まで出て湘南新宿ラインで横浜の海へ、東側に住む人は浅草寺に寄った後に両国、錦糸町まで出て総武快速線九十九里へ行く、という。この東西の分け方は新宿を南北で線で区切って分けるのがわかりやすいかと。単純にアクセスのしやすさだけではなく、東京の東は下町、色街のあった場所なのでどちらかというとお金に余裕がない人が多く住んでいたようで、逆に西側は阿佐ヶ谷あたりから立川くらいまで武蔵野の森を利用した別荘地帯として割と裕福な人が暮らしていたようだ。

 

そう言った違いからかわからないが九十九里と湘南の海のを比較するとなんとなく九十九里には影のある人が惹かれるイメージがある。(上述したつげ義春も房総半島の海を舞台にした漫画を多く書いているし、夏目漱石も若い時に外房の海沿いを歩いて旅した経験をもとに”こころ”の冒頭シーンを描いたとか。そういえば万引き家族でも足立区から九十九里に海水浴に行くシーンがあった)

 

そんなわけで割と自分の住まいからアクセスがいいにも関わらず行ったことのなかった上総一ノ宮(山方面)にはかなり惹かれてしまった。また行きたい。

 

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話を戻して

 

上総一ノ宮の玉前神社は前2回の神楽と違って夜18:00に開催されるとのことで少し不安を感じつつも訪ねてみたところ案の定観客は自分一人、、あとは関係者が数人というかなりアウェイな状態でしたが、なぜか地元の若い衆?と間違えられてとても親切にしていただきました。

 

神楽も短く2つのみ。神様を神楽殿に迎えるためのお神楽と、地元の繁栄を願う神楽、最後に餅まきというシンプルな流れで今までみてきた伝統的な神楽と違い地元の人たちが独自に伝承してきたリアルな里神楽を見ることができた。

 

↓いただいたお餅

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レポート1 玉前神社 前神楽

soundcloud.com

 

玉前神社の神楽は構成としてはとてもシンプルで同じリズム、メロディーを繰り返すのみの演奏だったが、そのメロディーがとても馴染みやすくポップで素晴らしかった。特にこの前神楽のメロディーはループ箇所の音階が同じになっており一度ドミナントモーション的に解決したと思わせて音を伸ばして無理やりループに回帰するようになっている(1:00~あたりがわかりやすい)この無理やり感は里神楽特有のもののように感じられ街に住む人たちの試行錯誤が伺えてとても良い(個人的にも解決前の最後の音とループのはじめの音が同じ音階というのはツボで例えば大瀧詠一さんの君は天然色のBメロ終わりとサビ頭なんかがそう)

 

メロディーの解決に合わせて大太鼓が入るアレンジもなんだかTrapのキックのようで?面白い。

 

レポート2 玉前神社 本神楽

soundcloud.com

 

前神楽の後に少し時間があったので関係者の方とお話しさせていただいた。やはり部外者は自分だけのようで、地元の人が見にくるための神楽との事。練習も楽譜などはなく口頭伝承のためその世相にあわせて色々と変化を遂げてきたようだ。神楽の共通の特徴として踊りに合わせて音楽が作られるのでまずは演舞者の動きありきだが、その演舞者の踊りも口頭伝承のため引き継いだ人によって少しずつ変化していったのだろう。

 

神楽の特徴としてはまたしても3小節回しが登場している。(ATCQ-Electric Relaxationのような構造、メロディーが奇数小節でループする曲)そしてこの曲もメロディーが良い。秋の夜の人の少ない神社というシチュエーションもあってか、かなり心にきた。ここで暮らしていたら夜には神社からこのメロディーを練習する音が聞こえてくるのだろうかと妄想。リズムも1小節の中に結句が3つありとても面白い。ループの最後にバックビートのスネアのように小太鼓だけが残るのがビートが効いていて良い。

 

玉前神社の神楽は夜の開催ということもあり時間も短く演目も少ないが、季節ごとに行なっているようでまた訪ねて別の演目もみてみたい。