ヨコハマ買い出し紀行を読み返している。
武蔵野国とヨコハマで生えている草の種類が違うことに気がつく。
散歩をすると、自分の中の回路が開く瞬間が必ずあって
それは記憶の中のいくつかの場所につながっている。
森山大道は引越しの多かった自分には故郷がないと言い
通り過ぎた街の、擦過した風景をつなぎ合わせてもう一つの自分だけの国を作ったという。
海の近くに住んだことはないが、ヨコハマ買い出し紀行のあるカットを見て
激しいフラッシュバックにあった。
何もないボロボロのアスファルトとそれを突き破って生える草の風景を自分は知っている。
どこで見かけたのだろうか。これまでに擦過した街を考えてみる。
Googlemapで過去の景色を眺めるだけで数時間たったりするように、
今はもうない景色を思うことに熱中してしまうたちである。
去年、自分の生家がなくなったがGoogle mapにはまだ取り壊される前の写真が残っている。
インターネットの時差。
呉明益の雨の島を読んでいたら”裂け目”から過去の誰かのデータが送られてくるという設定が出てきた。
インターネットに蓄積された404NotFoundのデータたちを集めて、ひとつの国にできたら面白いだろう。仮想空間にできた光年による視差。
相対性理論で捉えると現実に対して光回線であるネットの方が遅いのが面白い。
光の速度が逆転している。
光の速さで45分。
光の中にある過去。
光るゴミ。
光の夢を見る。
窒息する常夜灯が照らし出す
八月の子どたちは
焚き火のように肺を射す夜のにおいの中
心を遊ばせ からだを踊らせる
コンビニにうつる 巨大な影は
僕と僕の知らないともだちを
獣のような姿に変える
電線を這う光たちが
家々の中に潜り込み
誰にも知られず消えていくファイルたちを掠め取る
光るゴミは
光の速さで45分の場所にある
光のような星に
ひとつの国を作る
僕はそれを溺死した誘蛾灯の下で見る
ひとり 目をそらせずにいる